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 堤防の裂け目に指をつっこんで・・・オランダの少年の話は実話か? 



 長く疑問に思っていたことを解決すべく、質問として、あるサイトに投稿したことがあります。
 それは、堤防の裂け目に一晩中、指をつっこんでいて凍死してしまったオランダの少年の話は実話かどうかということです(この話、ご存知でしょうか?)。
 この話を初めて聞いたのは、私が子供のころで、父が教えてくれました。父はこの話を子供のときに学校で聞かされたそうです。
 この話の内容はだいたい、以下のようなものです。私が父から聞いた記憶をもとに書きます。

 オランダにある少年がいて、彼が夕方、堤防付近を歩いていると堤防に裂け目が入っているのを見つけた。裂け目からわずかに海水が流れこんできていた。オランダは海面よりも低いところに土地があり、海とは堤防で隔たれている。海水の圧力は強いので、このままでは裂け目はいずれ堤防の決壊へとつながるだろう。そうなれば国が海に沈んでしまう。
 堤防の裂け目をふさぐものは何もなく、少年は自分の指をそこに押し込み、海水をとめた。季節は冬であった。その夜、誰もそこを通りがからなかったので、少年は誰にも見つけられなかった。翌朝、少年が凍死しているのが発見された。堤防の裂け目に指を入れたまま。
 彼は国を守ることに命を捧げたのだ・・・。


 はじめのうち、私はこの話は実話であると思っていました。大人になってから、何かをきっかけにしてこの話を思い出したとき、これは実話なのだろうか、と疑問に思い、ネット上で質問してみました。すると・・・。

 実話ではなく、フィクションでした。
 楽しく、ためになる回答をいろいろいただいたので、いくつか紹介します。

 こんな記事があることを教えてもらいました (http://www.mainichi.co.jp/eye/yoroku/200011/17.html)。

 上記によると、作者はメアリ・ドッジと言い、この話は「銀のスケートぐつ」(1865年)の中の「ハールレムの英雄」という挿話であったということです。

 また、こんな回答もいただきました。
    >オランダに住んでたことあります。
    >「あの堤防少年の話しってる? 外国人はみんな知ってんだよね。
    >ほんとにそんなことするわけないのに、信じるなんてばっかじゃん!」
    >と、100回くらいオランダ人に言われました。

 そう言いつつも、オランダにはこの少年の銅像があることも教えてもらいました。http://www.learndutch.org/HansBrinker/big/hans.html


 なぜ、この話が世界中に広まったのか。人々の心に印象深く残る物語として機能したのか。
 おそらく、近代国家が成立し、機能していく中で有効だったのでしょう。この話がつくられた1865年頃、またそれ以降は、あらゆる地域で人々が国民としての意識を芽生えさせていく時期でした。国民意識を持った人々、その人々が住む領土を持った近代国家という形態が機能し出した時期でした。

 私の父は戦中に学校教育を受けているので、軍国主義的な教育のなかで、この話が学校で語られたといえるでしょうが、たんに押し付けられたということではなく、この話が日本だけではなく、世界中に広まっていたところを見ると、当時の世界の人々が共通してもっていた感覚にうったえるものをこの話が持っていたと思われます。
 
 物語もひとつのソフトと言えます。それが、多くの人々に覚えられた、語られた、(つまりはたくさんコピーされ、メモリーされた)ということは、その時代、状況、環境の中でうまくそのソフトが機能したということではないでしょうか。

                                            2003. 8.25
 
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