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 インセンティブに注目!
 
 
 日常生活において他人の言動にイライラさせられることが多い人は、そこにどのような「インセンティブ」が働いているのかをよく見てみることをおすすめします。
 インセンティブとは「誘因」「動機」「刺激」などと日本語に訳されます。インセンティブ  incentive の語源はラテン語でin(中へ)+canere(歌うこと)です。思わず歌いだしてしまうような何かに突き動かされてある行動をとってしまうその刺激になるもの、というニュアンスをこの言葉に感じます。 

 では、日常の人々の行動に伴う問題点を「インセンティブ」をキーワードにして考えてみたいと思います。

 電車に乗るとき、なぜ人々は競って座席に座ろうとするのでしょうか?
 座ったほうが得だというインセンティブが働いているからです。乗車料金が同じなら座ったほうがラクだからです。
 では乗客が競って座席の取り合いをするという行動をやめさせるにはどうすればよいのでしょうか?
 電車内で、立っていると乗車料金が安くなる、もしくは座席に座ると乗車料金が高くなるなどの策を講じるのはどうでしょう。例えば、車内の座席は普段格納されていて、100円玉を入れたら座席を引き出せるようにします。立ち上がると再び格納されるようにして、座りたい人はまたお金を入れないといけないようにするとか・・・。
 お互いに席を譲りましょうなどという、ただ良心に訴える方法だけではあまり効果的ではありません。せいぜい善意の人が傷ついたり損をしたりする機会を増やすだけでしょう。
 もちろんこれだけで問題は解決しません。これにより床に座り込む人も増えるでしょう。
 (余談ですが、若者が電車の床に座り込むというのは、見方を変えれば、座席をお年寄りに譲らないといけないというスローガンを守りつつ、それでも立っていられない自分の足腰の弱さをいたしかたなく両立させるための苦肉の策かもしれません。)

 誤解のないように申しますが、私はここで、電車内の座席の取り合いをやめさせたいと言っているのではありません。
 日常生活にインセンティブという視点を組み込んでいただきたいと言っているのです。この電車内の話はたんなる一例です。


 学級崩壊が進んでいる、授業を座って聞いていられない生徒が多い、などというニュースをよく聞きますが、私は当然だと思います。
 ここには、座って授業を聞いていられないというインセンティブが働いています。一度にたくさんの生徒を集めて決まった時間に決まったことを勉強させるという教育スタイルは過去のものです。情報社会に向かって進む世の中にはそぐわないものです。社会がかつて工業社会に向かっていたときにのみ有効だった教育スタイルなのです。
 ときどき、「学校に行きたかったのに行けなかった…。」などと言うお年寄りがいますが、学校の意味は昔と今では違うのです。昔は子供でも少し大きくなると労働力として期待されたので、畑仕事や、重たい荷物を運ぶなどの重労働をさせられました。そんなことをさせられるのなら、学校の教室で座っているほうがずっとラクです。昔は学校は(相対的に)ラクで楽しいところでした。
 情報社会において工業社会型の学校での勉強は非効率きわまりないものとなります。こんなことはしていられないと子供が思うのは当然でしょう。

 公共の場での携帯電話の使用の問題も「インセンティブ」の視点から、理解が容易になります。
 いくら公共の場でも、せっかく電話をしてくれた相手に対して、「いまちょっと・・・、」と、電話を切りにくいことはよくあります。他人から見て、どうでもよさそうな話をしているようでも、話している本人が大事な話だと考えればそれは大事な話なのです。電話の相手がただの友達でも大事な人は大事な人なのです。単身世帯の急増しているこの社会にあっては、友達は血縁のつながりよりもはるかに大事なものになるかもしれません。周りの人々の冷たい視線に耐えてでも電話をし続ける価値があるかもしれません。
 電話の内容が仕事に関することならさらに重要です。フリーランスで仕事をされているような人なら、そこで電話を切るかどうかは自分の収入にも影響することです。そのような状況に置かれていると、少々周りの人に迷惑でも電話をするのは仕方ないと思うでしょう。なぜなら、自分の周りにいる人たちに気を使っても一銭にもならないのです。ここには、電話を切りたくないというインセンティブが働いています。

 もう一度、誤解のないように言いますが、私は殺伐とした世の中になればいいと言っているのではありません。殺伐とした世の中にあって、それでもなんとか生きていくにはどのように考え、行動すればいいのか考えているのです。


 時代の転換点にあっては、古い価値観が新しい価値観に変わります。社会がその変化の過程にあるとき、それぞれの価値観が衝突して、混乱や分裂を招きます。だから腹の立つことやイライラすることはこれからもっと増えるでしょう。だからといってパニックを起こしてはいけません。冷静に今の状況がどうなのか、見てみればいいのです。それは出かける前に天気予報を見るのと同じことです。
 
 常に環境に適応して生きていかなくてはならないということは、動物の世界だけのことではないようです。


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