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 三・単・現の s とは何か [He gets ・・・, She sings ・・・, It works ・・・]


 I と you 以外の単数の主語(三人称)で、現在形の動詞を使って表現するとき、なぜ、sをつけないといけないのでしょうか。

 英語の世界において、言葉が交わされるのは基本的に1対1、つまり「わたし」と「あなた」の間のみです。「わたし」と「あなた」だけがその対話の領域をつくっており、それ以外のものはその領域の外にいます。
 松井力也氏は次のように言います。
 「一人称である[私][自分自身]という存在と、目の前にいる具体的な[あなた]という存在、そして、対話の外にいる第三者の存在は、それぞれ話者にとってその存在として質を異にするものです。」(『「英文法」を疑う』 講談社現代新書)
 「わたし」と「あなた」以外の話をするとき、その会話が成り立っている世界とは別のこと、という感じが「三・単・現のs」に出てくるのです。

 これは本当にそのとおりだと、私自身、経験したことがあります。
 職場で英語の研修を受けていたときなのですが、一人の生徒が三・単・現のsをつけずにしゃべったとき、ネイティブの先生は「sをつけろ」の意味で、自分の親指を立て、自分の背中の方角を指しました。そのしぐさから、「どこかのだれかの話だ」という感じを彼が持っていることがわかりました(こんなことされても日本人には意味がわかりませんけど・・・。)。

 英語のような、単語の変化がどんどん少なくなっている言語においてもなお、しぶとく「三・単・現のs」をつけて皆がしゃべっているところを見ると、英語話者全般に、会話とは「わたし」と「あなた」の間の1対1のこと、という共通の感覚があることを裏付けていると思います。

 日本人にとってこれは馴染まない感覚ではないでしょうか。日本人の感覚において、会話はその場全体、もしくは関係者全員のものであるように思います。
 
このような話を聞いたことがあります。
 <日本の高校で教えるネイティブの英語教師が授業中、教室の室温が暑いと感じ窓際にいる生徒に、「窓を開けていいか?」とたずねたところ、その生徒はだまってうつむいてしまった。この教師は、この生徒は何と失礼なヤツだと思った。>

 この教師にとって1対1の会話に応答しないことは、「わたし」と「あなた」の間の関係を無視した失礼なことになるのでしょうが、この生徒にしてみれば、自分の教室にいる全員のことを考えないと、失礼になってしまいます。

 会話が交わされているとき、関係する世界の境界線をどこに引くか・・・、この感覚がズレたままでは、話もズレて当然でしょう。





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                                 2003. 5.18