英語学習記 メニューへ


 英語の弱点  ―格が隠れて大混乱―


 英語という言語には大きな弱点があるのです。
 英語が、そのほとんどの表面上の格変化を失ってしまっていることが、相当に日本人に英語をわかりにくくしていると思います。
 (格とは。例文→「太郎が花子に指輪をあげた。」  この文の場合、「太郎」「花子」「指輪」という各名詞の間に格の違いが存在します。余談ですが、ラテン語的に言えば、「太郎」は主格、「花子」は与格、「指輪」は対格となります。格を間違うと意味が変わります。)
 格がはっきりわからないと、「何が」「何に」「何を」「何から」ということが分からなくなります。さらにやっかいなのは、英語はその内部では厳然と格が存在しているのに、目に見えるかたちでの格変化をほとんど失っていることなのです。
 (よく、英語は単語の変化が少ないので他のヨーロッパ語―仏、独、伊など―よりも学ぶのは簡単、というようなことを言われますが、そんなことはありません。単語の変化が少ないことで、語順に厳密になる、文章表現が長くなる、言葉がどの言葉にかかるのかわかりにくい、などの弊害がおこりやすくなります。)

 『ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本』(向山淳子・向山貴彦 著  幻冬社)の英語の基本への説明のアプローチは大変結構ですが、ここに”格”の感覚について解説の必要があると考えます。(以下《》内は引用です。)
 
 《英語の基本的な仕組みはたったひとつの図だけで説明できます。  [A]→[B] 》
 [A]は主役の箱、[B]は脇役の箱と向山氏は呼びます。[A]に主役、[B]に脇役を入れて→に動詞をあてはめると英文ができるということです。(ちなみに→に入るのは他動詞、この形の文は第3文型です。いつか自動詞と他動詞、文型とは、というテーマにも触れたいと思います。)
 そして例として、[A]に猫、[B]にエド(人の名前)、そして→にscratched(ひっかいた)という言葉をそれぞれ当てはめ、以下のような例文を作っています。
 [The cat] scratched [Ed].

 ここで注意点ですが、[A]の箱に入る単語と[B]の箱に入る単語では格が違うのです。[A]は主格(〜が、〜は)、[B]は目的格(〜を、〜に)です。

 [A]は主格、[B]は目的格、ということがはっきりする、つまり英語であっても語形が目に見える形で変化するのは人称代名詞を用いた時です。
 ためしに「猫がエドを引っかいた。」という例文を「彼女が彼を引っかいた。」の意味に変えてみましょう。
 [She] scratched [him]. 
 Sheは主格なのでそのまま変化なし。heは目的格(〜を)なのでhimに変化。
 
 これをひっくり返すとどうなるのか。つまり「彼が彼女を引っかいた。」としてみます。
 [He] scratced [her]. 
 Heは主格なので変化なし。、sheは目的格ですのでherに変化します。ここに、英語もまた単語の語形が変化する言葉であった、という名残をみることができます。

 ところが、ここが英語のわかりにくさのポイントなのですが、前述した[The cat] scratched [Ed].をひっくりかえしても、語形は人称代名詞の場合のように変化しません。
  [Ed] scratched [the cat].
 そう、語形はなんら変わりません。しかし、格は変わっているのです。本来は語形が変化していたのですが、それが現代では語形の目に見える変化だけがなくなってしまいました。しかし格の違いはこの中に含まれているのです。


 歴史的な経緯により、語形の変化(屈折)が基本のヨーロッパ語の中でも、語形変化が少なく語順に厳密な英語は特殊な部類に属しているようです。
 
 《・・・そうした英語の特殊性を知らずに語学学習をしているとどうなるかというと、文の構造や論理を考えなくなってしまうのです。》『語学で身を立てる』(猪浦道夫 著 集英社新書)





                                英語学習記メニューへ